Take it easy.

えすあいあー



妻が亡くなった

妻が亡くなった。

まだ20代だったのに。
やりたいこともまだあったはずなのに。



入院してから検査と治療を並行して進めてもらっていた。
まだ病気の原因は分からないけど、死因は「脳炎」と死亡診断書に書かれていた。

理由は分からないけど脳が膨れ上がっていって、その影響で心臓が止まって、呼吸が止まって・・・
本当に入院してからの病状があっと言う間に悪化したため、頭と心を切り替えることができなかった。

もちろん延命措置も取ってもらったが、またすぐに危篤状態になった。


危篤になるだいぶ前から葬儀の準備を進めている人もいた。
万が一が起きた時に必要なことなのは分かるけど、自分はどうしてもそんな気になれなかったし、
それをやると妻の死を自分自身認めてしまうような気がして、変にこだわってしまって、どうしてもできなかった。
そうしたら後で強く責められた。
そういうもんなのか?自分には分からないし、身内からはお前は間違っていないと言われたけど未だに分からない。




危篤状態になってから、医者からは「脳の状態は不可逆的(回復しない)」ということと、「脳の機能はほぼ停止し、死んでいる状態に近い」ということを再三言われていた。
それでもどうしても現実を呑み込めなかった。

理由はいくつかあった。
心臓はまだ動いているし、手を握ると暖かかったから。
危篤状態になっても心臓が持ち直してきている姿は、生きていることそのものにしか見えなかったし、何より嫁さん本人がまだ生きたいと言っているようにしか見えなかったから。



「もう治らない」と言われてベッドの上で多数のチューブに繋がれて横たわる嫁さんを見て、何回か泣いた。
本当に毎日泣いた。
声を上げて泣くようなことはしなかったけど、手を握っているだけで自然と涙が込み上げてきたし、
自分で嫁さんの病状を口に出して喋っていると、実感が湧いてきて感情が高ぶって涙が出ることもあった。


入院してから毎日、会いに行った。
意識は無いけど、看護師さんが「聴覚は最後まで残ると言われています」と言っていたので毎日声をかけた。
危篤状態になってから1週間少しあったけど、夜中も許可を取ってつきっきりで一緒にいた。
それで回復するわけもないのは自分も言葉としては分かっていたけど、多分、本当の意味で理解はしていなかった。
万が一、もしかしたらという気持ちは当然最後まで捨てきれなかったし、入院してからほとんどずっと意識が無かったから、そのままお別れになってほしくなかった。


でも、だんだんと嫁さんの血圧は下がり続けて、20台とか見たことない数値のまま2日が経過して、夜中に不整脈が起きていると呼ばれてから2時間ほど後に亡くなった。

脈拍が120になったかと思ったら30に下がって、110になったと思ったら一瞬0になって・・
最後は0になったまま戻ってこなかった。

その日は思ったより変に冷静で、こんな夜中に家族で看取りながら最期を迎えるとかドラマかよとか変なことを考えていたけど、
脈が0になった時は何が起きたか分からなかった。

握っている手はまだ暖かかったし、
人工呼吸器によって酸素が送られているから定期的に呼吸は続いているように見えたし、ただ脈拍の数値だけが0になっただけ。

ただ、握っていないほうの手と、足、顔を順に触ると体温が明らかに低かったことが、「嫁さんは亡くなった」ということを何よりも自分に理解させてくれた。